ひねもすのらりくらりかな

福岡在住です。 すろーなペースで食べ物,写真などについて書いてます。

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2017.08.08 Tue » 久しぶり

久しぶりに小説を書いてみました。
A4用紙で2枚半ほどの短さなのですぐ読めますし,
自分ではそこそこ好きな感じの話が書けた気がしますので
できれば読んでもらえるとうれしいです。
願わくば会話文を博多弁にしたかったのですが,
変に無理して博多の人に違和感覚えられるのを避けて
いちおう標準語のつもりで書いてみました。

***********************************************

「追い山から今日でちょうど一ヶ月か。」

 5時近くを差す時計をみながら守衛は大きく伸びをして外に広がるぎなんの木を見上げた。どっしり据えた幹から幾重にも枝を栄えさせその端々までに緑の葉を無限に茂らせ空に繋げていく荘厳な様をみると,徹夜明けでよどんだ意識が澄んでくる気がした。
「あそこに太鼓台があって,大勢の人がみつめる中を一番山が櫛田入りしてから…一ヶ月か…。」と今では跡形もなくなった桟敷席を思い浮かべながら記憶の中の山の動きを目で追っていると,清道入り口で物音がした。
「あ,ちょっと,今開けますから」と守衛は言って控え室を出て,車止めの竹竿の隙間を抜けようとして手押し車が引っかかって身動きとれなくなっていた老婆に声をかけた。手押し車に頼らないと歩けない状況だというのに,どうにかして清道に入ろうとして必死になっていた老婆は守衛の姿に気づいて顔を上げると,驚いたような顔をしばらくした後で,「あ,ありがとうございます。」とばつの悪そうな表情を浮かべながら答えた。
「いやほんとごめんなさいね門は階段あるから手押し車だとここからしか入れませんものね。」と守衛は素直な謝意をみせて頭を下げてから竹竿を壁側にずらし,「さ,どうぞ」と笑顔で言って手で清道に導くようにした。

20170808takezao.jpg

「すみませんでしたな,では。」と老婆が今度は年相応に落ちついた声で答えると,手押し車の荷物入れから淡い桜色のハンカチを取り出して左手ににぎり,袖で額の汗をぬぐってから両手でしっかり手押し車を握って清道を歩き始めた。最初守衛は心配そうな面持ちで老婆をみていたが,ゆっくりではあるがしっかりとした足取りで歩いて行く姿をみて安心して業務に戻った。

 固まりの藍が溶け出して鮮やかな青に水を染めていくように明けていく夜の闇が青さと透明さを増していく中,清道を歩く老婆の姿が意識された。「あ,まだあそこか。大丈夫かいな。」と思って守衛がみると,歩くのに疲れたのだろうか拝殿まで半分くらい歩いたところで老婆は立ち止まり,どこをみるで無くぽうとした視線で南方を見上げ口をまごつかせ続けていた。一応様子を確認するために守衛は駆け寄るほどではないゆっくりとしたペースで老婆に近づき「大丈夫ですか。」と尋ねた。
 老婆は,守衛の言葉に気づいて最初恥ずかしそうな表情をしたが,その後何か思い出したかのようなやわらかい表情を浮かべてハンカチで顔をぬぐってから,「ええ,大丈夫です。ちょっと思い出しごとなどしとりました。」と答えた。

 青にみちた朝の空気の中をよぎる桜色のハンカチの動きをみた守衛はふと,海の中をたおやかに泳ぐ魚の姿をみたようなほうとした気分になって,柄ではないけど今の気持ちを伝えたくて「素敵な色のハンカチですね。この朝の色にあう桜色で。」と言った。
 その言葉を聞いた老婆は最初少し戸惑ったような表情をしてから,「ああ,これね。ハンカチじゃなくて手拭いなのこれ。何回も洗いすぎて色落ちしたから確かに桜色ね。」と笑って答えた。そう言われると端々にほつれた糸もみえ,生地の編み目が粗く薄くなったところなどがあちこちにみえたので,「大事になされてますね。」と守衛が言うと,老婆は少し目を落として「ほんと,大事にせずには…」と小さく言葉を漏らしてから何かを飲み込むようにして,そして分かりやすい笑顔を浮かべて「年をとりますと何もかも大事にしないといけませんので。」と答えた。そして「こんな朝だというのに歩くと暑いですね。最近は熱中症で亡くなる老人も多いので,私も用心しないと」と言って手押し車の荷物入れから水筒を取り出し,持っていた手拭いに水を含ませてからゆっくりと胸に手拭いをあてた。

 わずかな時間で急激に色を変え明けていく空はどんどん透明度をまして水色に変化し,まだ昇らぬ陽の色をかすかに帯びた雲が蓮の花のようにゆったりと老婆の手拭いの向こうの空に浮かんでいた。その空をしばらく眺めたのち,すうと大きく息を吸って老婆は再び飾り山の方に歩き始めた。その足取りはしっかりしたものだったので,安心した守衛は社務所での作業を思い出してそちらに向かった。

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 守衛が作業を終えて清道に戻ってくると,老婆はすでに山小屋の前にいて飾り山を見上げていた。かなり明けてきた境内ではあるが山小屋奥にある飾り山は暗く,境内を照らすハロゲン灯のオレンジの光に人形の細工がかすかに光を結ぶ程度で人形の細やかな表情などはみえにくい状況だった。それでも老婆はありがたい表情でただ見上げ続けていたが,ふと守衛は思いついてこう言った。「そうだ,せっかくだから照明と案内つきでみましょう。良く考えたら自分も案内を全体を通して聞いたことないし,ね,俺とつきあって。」

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 守衛が自動照明案内機にお金を入れると,ぱっと明るくなった山小屋の中に飾り山のきらびやかな姿が浮かび上がる。奇稲田姫,素戔嗚尊,天照大神と人形を見上げることを通じて天に意識を届かせるも,放たれる陽の光にきらきら揺れる金銀の細工のゆらめきとして意識はまた現世に戻る…そんな循環を1つの山に具象化した姿に感服しながら眺めて,老婆も同じような感じで感服しているのかと思って横顔をみると,そこにはまるではじめて飾り山をみて驚いている娘のような表情が浮かんでいた。
「ん?飾り山をみるのはじめて?」と守衛が聞いてもしばらく老婆は言葉にならないと言った表情でただ飾り山を見上げ続けていたが,かすかに涙を浮かべながら今度は守衛に是非聞いて欲しいといった感じで「おんなじ…あの時と…本当におんなじ…」というと,それからまた言葉を失ったようにして飾り山を見上げ続けていた。


 ふっと自動照明案内機のアナウンスが終わり照明が消え,山小屋周辺には手水桶に溜まった水の奥に見える色のようなかすかな青の色と静寂に包まれた。守衛が何か声をかけようかと戸惑っていると老婆は落ちついた表情に戻って「ありがとうございました。これで帰れます。」と言って頭を下げて御礼を言ってから手押し車で歩き始めたので,守衛は「お元気で!」と言って作業のため拝殿に入っていった。

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「おはようございます!守衛さん!」と元気な声が聞こえたので振り返ると,朝の一番太鼓を鳴らす若い神職の男が出勤してきた。「おお,おはようございます。」と守衛は答えて,簡単に夜勤中の勤務状況について申し送りをしながら先ほどまで一緒にいた老婆をみかけたかと若い神職に聞くと,気づかなかったとの返事であった。もう既に老婆は帰られたかと思いながら拝殿から出て夫婦恵比須神社周辺での作業をしていると,老婆はちょうど守衛室の前で清道から道路に出ようとしたところだったので,守衛はもう一度声をかけたくなってその場に向かった。

「ほんと,気をつけて帰ってくださいね!」と守衛が老婆に声をかけると,老婆は声に気づいて立ち止まり,何かをやり遂げたという満足とも安堵ともつかぬ不思議な笑みを浮かべて「これで無事,成仏できると思います。」と言った。その言葉を聞いて守衛は「ちょっと,おばあちゃん,成仏なんて変なこと言わずにまだまだ長生きしてってね。」と反射的に答えた。
 すると老婆は意外なほど元気な声で笑って手にしていた桜色の手拭いを守衛に示して,「成仏してもらうのは…こちら…盆を過ごして安心して戻ってもらえると思って。」と言った。そして手にした手拭いを赤子を抱くかのようにいとおしげにたたんで「夢だった…果たせなかった櫛田入りを…代わりに…なんとか…。」と続けた。
 
 老婆のこれまでの一連の行動の意図に気づいていたたまれなくなった守衛が何も言えずに立ち尽くしていると,老婆は守衛を気遣うように明るい笑顔になって言った。「ご安心を,私はまだまだ長生きさせてもらいますよ。共白髪は果たせませんでしたので,せめてこの赤手拭いが真白になる時までは。」
 それから老婆は手拭いを手押し車の荷物入れにしまうと,守衛に深く一礼をして手押し車をしっかりつかんで歩き始めた。そしてその老婆の背中を後押しするように,拝殿から一番太鼓の音が鳴り響きはじめた。

飾山笠 見る約束に 集ひけり

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